宮本將廣のExtraColumn009「10月の秋田を想フ」

宮本將廣のExtraColumn009「10月の秋田を想フ」

10月も終わりを迎える。

あっという間の1ヶ月であったが、どこか長かったようにも感じる。

Bリーグが始まり、ちょうど1ヶ月

コロナ渦でのリーグ開催の難しさ、外国籍の合流の遅れやコンディション調整の難しさ。

ファン、ブースターだけでなく、クラブ、選手、スタッフ全ての人にとって、全く不安を感じない人はいない中で、多くの人の努力で、バスケットボールがある日常がある素晴らしさを感じる。

そんな中、プレシーズンで明らかに他とは違う完成度を見せていたクラブが秋田ノーザンハピネッツであった。

しかし、リーグ戦が始まってみれば、秋田の成績は10試合で6勝4敗。勝ち越してはいるが、少し物足りなさを感じる。

開幕4連勝で一時、東地区の首位にたった。信州との開幕戦は圧巻だった。

しかし、第3節の琉球戦に連敗し、第4節の北海道戦では大敗を喫した。北海道戦の秋田の噛み合わなさは、私も現地で観戦しながら、あまりに心配になるものであった。

きっかけは琉球戦の敗戦にあったと思われる。

秋田のピックアンドロールに対する強度の高いハードショーディフェンス。これを琉球は逆手にとり、積極的に仕掛けてくる秋田のディフェンスを見極め、それに対する正しいリアクションをし続けた。

あの試合にはバスケットボールの本質が隠されていたように思う。

基本的にバスケットボールはオフェンスが有利だと考えられる。ゴールに正対してプレーをすることが多いオフェンスとゴールに背を向けてプレーをすることが多いディフェンスでは、オフェンスが有利な場面が多いことは想像にたやすい。

では、ディフェンスはその不利をどう補うのか?

基本的にはゴール、ディフェンス、オフェンスという順番になるため、ディフェンスはゴールまでの距離の短さを使い、オフェンスのアクションに素早く、正しいリアクションをしていくが挙げられる。(内線の利と呼ばれる。詳しくは書籍「ボールマンがすべてではない」を読んでもらいたい。)

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要するに基本的な関係性では、ゴールから遠いオフェンスがアクションをし、それにディフェンスがリアクションをすることになる。

しかし、秋田は違う。(他のチームもそれぞれ違いがある。)

積極的にディフェンスでアクションを起こし、オフェンスに悪いリアクションをさせるように誘導し、オフェンスを苦しめ、スティールやタフショットを誘発させる。

その攻めるディフェンスが秋田のバスケットボールの醍醐味であり、秋田のバスケットボールの面白さなのだ。

しかし、琉球はその秋田に対して、慌てることなく、そのアクションを起こさせた瞬間に、適切なリアクションをし続けた。簡単にいえば、琉球はジャンケンでずっと後出しをし続けたと言える。

ボールにプレッシャーがかかる前にスペースをとり、秋田のディフェンスを意図的に動かし、空いたスペース、いわゆる急所をついてくる。その急所にディフェンスが集まれば、さらに空いたスペースにパスを散らして行く。

バスケットボールが陣取りゲームと呼ばれる所以がそこにはあった。

これは、それを構築した琉球の藤田HCとそれを遂行した琉球の選手達を褒めるしかない。

そこから時間もなく行われた北海道戦では、北海道も秋田をしっかりとスカウティングをし、同じことを行なってきた。秋田の選手達にはどこから迷いが見え、ディフェンスでリズムを作れないせいか、オフェンスにも攻撃性と連動性が失われていた。

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実はシーズン中は練習をする時間がない。

試合、遠征と続き、選手達の疲労も考慮すれば、コンディション調整と次戦に向けたスカウティングに費やす時間が多い。

おそらく、この数試合、伊藤、古川のプレータイムが伸び、勝負どころで細谷を含めたベテラン勢の起用が多いことには、歯車が噛み合わないチームをベテラン陣が支えてくれているという信頼からの起用と思われる。

しかし、それを続ければ、若手の自信が失われていく可能性も考えられる。

40分間激しいディフェンスをベースとする秋田にとって、何よりも大切なのは、若手の自信と躍動感であり、チーム全員が同じ強度でプレーすることだと考えられる。

その中で、今が今シーズンの秋田のターニングポイントとも言えるし、チーム自体もそれを理解しているように見える。

声援のないコートにはディフェンスでコミュニケーションを取り続ける古川の声が響く。

何度もハドルを組み、チームを鼓舞し続ける。

渋谷戦、足を痛めた伊藤は終盤にコートに戻ってきた。勝負どころで、自らミドルジャンパーを決めるシーンもあった。

苦しいことは間違いない。それでも、ベテランが秋田に大切な何かを表現し続ける。

苦しいチームにきっかけを作ろうと奮闘する長谷川暢ら、若手達が何を感じ、何を表現していくのか。

渋谷戦、終盤、前田顕蔵HCに呼ばれ、ベンチでその言葉に耳を傾け、その後、プレータイムがなかった彼は何を思うのか。

今は少し、向いているベクトルがバラバラになっているのかもしれない。

それでも、秋田の稲穂が同じ向きに傾き、黄金に輝き始めるための最初の一歩だとするのなら、この時間は秋田にとって必要な時間だったように思う。

すでに秋は深まり、季節は冬に向かっている。

しかし、秋田ノーザンハピネッツという稲穂が黄金に輝くその瞬間は、秋に収穫を祝う稲穂とは少し季節の違う「日本一」の瞬間なのだと思うから…

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