レバンガ北海道に見えた新しい可能性という扉

レバンガ北海道に見えた新しい可能性という扉

ある質問を投げかけて、彼はこちらを見た。

先ほどまで、どこか難しそうに試合を振り返った彼の表情が、その瞬間、私には少し微笑んでいるように見えた。

きっと彼の前には新しい扉があり、その扉の先にはきっとまだ見ぬ自分、そして今までとは違うレバンガ北海道が見えている。

私にはそう感じた。

ある名将が残した言葉

選手には「バスに乗り遅れるな」と言うんだ。このクラブは進化しなければならないし、バスはいつまでも乗客を待ったりしない。

これは、サッカー界の名将アレックス・ファーガソンが残した言葉だ。

どんな選手であっても、そのクラブが「進化」というバスを走らせる以上、乗り遅れたものはそのバスには乗れない。そして、どこかでそのバスを降りるという選択もする。

極論ではあるが、

3月24日、第28節サンロッカーズ渋谷とレバンガ北海道の試合後の記者会見を終えて、私はこのファーガソンの言葉を思い出していた。

余談だが、北海道の冬のバスは時間通りくることはほとんどない。それを住人も理解している。しかし、東京は全てが時間通り、そして、乗り遅れてもすぐに次のバスが来て、乗り遅れた分も、インターバルで必死に走れば、予定時刻に間に合うこともしばしばある。

そんなところにも、クラブの地域的文化が影響するのかな…なんてことを会見が終わって考えていた。

プラン変更も食らいついた北海道

試合の結果は渋谷の完勝だった。

前半、北海道も粘りを見せ、1Qは積極的にリングにアタックをして、ペイントタッチを起こし、2Qに渋谷ペースで試合が進む中で、タイムアウト後にゾーンプレスからゾーンディフェンスを仕掛け、わずかだが流れを引き戻す時間帯もあった。

前半のスコアは38−49で渋谷がリード。

内容的にもっと点差が離れてもおかしくはなかったと思う。

北海道の宮永HCも会見で

「まず渋谷のインサイドを止めようというところから入ったが、彼らを起点に日本人選手の高確率なスリーポイントを決められて、少しプランが崩れて、選手達に遅れが出てしまった。」

と語った。正直、ここで一気に試合を持っていかれてもおかしくはなかったと思う。。それも試合開始から数プレーでプランが崩れることは想像以上に試合を難しくする。

その後、用意していたセカンドプランなどを仕掛ける中で、試合の流れを呼び戻そうとしたが、そこもやられてしまい、選手も迷いが生じてしまったことを宮永HCは言葉を噛み締めながら話してくれた。

それでも、疲労も含めた劣勢の中で、食らいついた前半の北海道には、間違いなく成長の兆しを感じたし、最後まで「ハードワーク」をした選手達を宮永HCも何度も称えたことが印象的だった。

そして、先ほどの話になるが、宮永HCが走らせるバスに乗り遅れずに共に「ハードワーク」をしている選手が現在、多くのプレータイムを得ることができていることもまた事実であり、プロ選手としてその真価が問われているのが、今の北海道のリアルなのかもしれない。

オンコート、オフコートのハードワーク

そこにはレバンガ北海道、宮永HCの価値基準がはっきりと感じられた。

この試合、疲労を理解しながらも、渋谷のハードプレッシャーを掻い潜るために宮永HCは橋本竜馬、多嶋朝飛をスタメンで起用し、かなりの時間、起用した。

おそらく、それは宮永HCが繰り返し言葉にし、北海道のカルチャーとして創り上げる

「ハードワーク」

が存在する。

新生レバンガ北海道の初年度として、宮永HCにもぶらしてはいけない基準が存在するはずだ。そして、それを日本人、外国人問わず、体現する選手のプレータイムが長くなっている印象がある。

これを書くと、怪我のリスク、パフォーマンスの低下を疑問に思う読者もいると思う。これはあくまで憶測であるが、それだけスタッフへの信頼が厚いのだと感じている。

橋本竜馬も会見で、今後の過密日程、疲労に関する質問が飛んだとき、

「やはり疲れはあるけれど、メディカルの部分でチームスタッフがしっかりとやってくれている。今日はもちろん疲労はあったが、想像以上に動けた。」

と答えた。

試合前、前後、もちろん見えないところも今の北海道はそれぞれのコーチ、スタッフが尽力する姿もさることながら、それぞれにかける人数が増えたことも印象的だ。それぞれがスペシャリストとして、「ハードワーク」していることがわかる。

事実、他チームで選手生命にも関わるような大きな怪我人が出ているが、ただでさえ移動にハンデがある北海道からは、そのような大きな怪我人は出ていない。それが1つの証明になると思う。

だからこそ、オンコートで選手達も「ハードワーク」ができる。

そして、もう1つがオフコートでの「ハードワーク」だ。

この試合、コンディション不良で桜井良太が帯同しなかった。今シーズンの桜井はオンコートではもちろん、ベンチでの盛り上げ役での存在感も一際目立っている。桜井、橋本、そして山口颯斗あたりがそれに当たると思うが、この試合、桜井のいないベンチは今までとガラッと雰囲気が変わってしまった。

宮永HCには、オフコートで「ハードワーク」できるかどうかも、オンコートに立つための基準になっているような気がする。事実、能力も高いが、まだ荒削りな山口は完全にコートの中心にいる。

すべての場面で「ハードワーク」できることが、宮永HCが走らせるバスの価値基準になっている。それは桜井がいなかったことによってよりリアル見えた部分かもしれない。

橋本が見つけた、今以上の自分に出会う扉

さて、冒頭の話に戻る。私はある質問を投げた。それは橋本竜馬だ。

自意識過剰かもしれないが、その質問に答えてくれた彼の表情は、それまで少し難しそうだった表情から、どこか柔らかさをおびた。

この試合、橋本がペイントタッチをするシーンが印象的だった。(後半は北海道のペイントタッチの約半数が橋本)

そのことについて質問をしたところ、橋本は

「自分は今も、これまでのキャリアの中でも、ディフェンスから始める選手だと思っている。その中で、チームに求められていること。それを理解して、実行していくことも自分の良さだと思っているので、今、求められているところ、自分がステップアップしないといけないところを冷静に見極めていきながら、プレイをした結果、今日はペイントタッチをしていき、パスを配給したり、ショットに持ち込むことができた。もっともっといいプレーに繋げていける実感もありますし、負けてしまったので、合格点は与えられないですけど、下を向くことなく、向かっていく。自分自身もそうですね。」

と答え終わった彼の表情は、どこか、まだ見ぬ新しい自分を見つけたような…新しい発見に心を躍らせる、そんな少年ようなきらめきがあった。

彼もそんな環境を求めていたのかもしれない。

闘将橋本という選手のさらなる進化が、レバンガ北海道で見つけられるのかもしれない。

そのために、橋本は宮永HCが求める「ハードワーク」を体現し続ける。チームに求められていること、自身が体現できることがまさにそれであり、そして、その先に

今以上の自分に出会う扉があるのかもしれない。

その先には、間違いなくレバンガ北海道が強くなるための新しい可能性の扉が無数にもあるのだと思う。

コートに立つこと、コートに立たずとも、できることは山ほどある。

「ハードワーク」をすることで見つけられる新しい自分がきっとそこにある。それはプロバスケットボール選手に限ったことではない。

そんなことを橋本竜馬から感じた試合だった。

そこに続くのは誰か?

今、あまりコートに立っていない選手からそんな選手が出てくることを期待しているのもまた、レバンガ北海道のリアルかもしれない。

まだまだこのチームには伸び代があり、そこに向かって進んでいることを感じ取れる敗戦だったと思う。

筆者はなぜか、夜桜が満開の墨田公園を心踊りながら歩いた。

きっと、このチームは強くなる。

満開の桜並み木を歩きながら、そんなことを思った。

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