沖縄アリーナ観戦記

※こちらの記事は宮本將廣のnote「沖縄アリーナ観戦記」からの転載記事になります。内容は同じです。

そこはまさに非日常だった。

そして、そこはこれから日常になっていく。

日本バスケットボールの先駆者として、時代を切り拓いていく沖縄、琉球ゴールデンキングス。

Bリーグ公式戦のオープニングゲームとなった4月21日、私はその瞬間に立ち会うことができた。

きっと私はこの日を忘れない。

外観を見た時、ロビーに入った時、そして、アリーナに入った時の今までに感じたことのない空気感、身体を駆け巡った高揚感。

そして、自然と涙が溢れた。

けれど、この歴史的な1ページは決してゴールではなく、

これが日本のバスケットボールだ。

この景色が日常になる。

そんな未来に向けた始まりの合図。

最上段からの熱狂

色んなご縁やタイミングがあり、私は沖縄に向かった。

きっかけはプラスクラス・スポーツ・インキュベーション株式会社平地代表のSNSの投稿でだった。

この数十秒の映像で、心が震えたと同時に、これをすぐに現地で体感しなくてはいけない。この瞬間までそう感じていなかった自分に少し失望さえ感じた。

チケットもないが、すぐに沖縄行きの手配をした。

私を沖縄へ動かしてくれた平地さんには感謝しかない。平地さんのおかげで価値観が変わる感動を体験できた。

平地代表には以前、私は出演していたエクストラパスのPodcastにもご出演いただき、映像、アリーナなどについてお話を伺った。ぜひ今一度、こちらのPodcastは多くの方に聞いていただきたい。

https://twitter.com/extrapassbb/status/1263987517566545920?s=21

また、沖縄では地元の沖縄バスケットボール情報誌のOUTNUMBERの金谷編集長にお世話になった。

こちらも様々なご縁があり、お会いしたことがないのに、当日空港まで迎えに来ていただき、様々なところに連れて行っていただき、沖縄バスケに関わる方々もご紹介いただきました。

OUTNUMBERさんの沖縄アリーナ特集のYouTubeもぜひチェックしてください。

本当にこの場を借りてお二人には改めてお礼を申し上げたい。

先ほども書いたが、本当に価値観が変わる感動を体験した。

私は最上段の立見席から試合を観戦した。

個人的に私は最上段から試合を見たいと考えている。その理由はまずゲームを俯瞰して見たいこと。日頃、戦術などにも注目してみるため、コートの全体を見たい。全体が見えると、たとえば、トランジションのシーンでボールプッシュに対して、しっかりとアクションが取れているか?ディフェンスでヘルプサイドがチームルールに対して正しいポジションを取れているか?などが見えてくる。

そして、もう1つある。

最上段のファン・ブースターまでその熱量が伝わっているかを知りたい、体感したいからだ。

これは以前、Jリーグの栃木SCのえとみほさんがおっしゃっていた。

「スタジアムの最上段の人まで楽しめているか」

それがいい試合だったかどうか、ゲームの内容だけでなく、コンテンツとして総合的な評価の1つになるという話を聞いた時に納得しかなかった。

スポーツは勝敗を保証できない。現にこの試合も琉球は勝利をすることができなかった。

それでも、そのチケット代を払うだけの価値があったか。

それは試合の結果だけでなく、内容であり、そして試合以外の部分でどれだけの満足感を得られるかどうかだと思う。

事実、アリーナに入った瞬間に、私はもうチケット代以上の満足感を感じた。

そして、試合中も立っていることで、そのリズムについ乗ってしまう。

もちろん最前列などの臨場感は体感していないからわからないが、最上段でもそこにいた私を含めて、多くの方が同じ感情、気持ちでリズムを刻んていたように思う。

沖縄アリーナには最上段から熱狂がある。いや、むしろ最上段だからこその楽しみもあると言ってもいい。

観戦者のためのアリーナという、その想いはきっとそれぞれの席に込められていて、それぞれにあった楽しみ方や今まで知らなかった楽しみを提供してくれるのだと現地で観戦して感じた。

なぜ、最上段でも熱狂が生まれるか

では、なぜ最上段でも熱狂が生まれるのだろうか?

私も観戦をしながら、ふとその疑問が湧いた。

様々な要素があって、もちろんその1つにはコートまでの距離があると思う。

非常にコンパクトなサイズ感で、横ではなく、上から見下ろす感じなので、この表現が正しいとは言えないが、あえて例えを言えば、アニメ「スラムダンク」のオープニングの最初のシーンのような感じだ。

全体が見えるけど、選手が誰かもしっかりと理解ができる。

私は2019年のさいたまスーパーアリーナで開催されたNBAジャパンゲームズも現地の上の方(最上段の1つ下)から観戦したが、正直、主要選手以外は誰が誰かはわからなかった。

ちなみに私はメガネをかけて視力は1.0だ。その視力で最上段では全てをはっきりみることができる。そして、500インチの大型ビジョンも手伝ってくれて、リプレイなどで再確認もできるし、見ているサイドと逆サイドからの視点を映してくれるので、その瞬間わからなかった情報も目線を変えるだけで、確認することができる。

もちろん照明の質や技術などもあると思うが、本当に見やすい。

これは上の方から見ても満足度が高いと思うし、最上段は間違いなくそれだけで値段以上の価値があると思う。ちょうどいいサイズ感のアリーナなのだ。

(コートレベルから見た人のご意見、ご感想も聞いたが、今回は長くなるので、そこはまた次回以降にしたい。)

ただ、私がそれ以上に感じたのが「音」だ。

間違っていたら、ご連絡をいただきたいが、スピーカーの質なのか、スピーカーの場所なのか、アリーナの作りなのか、演出クオリティなのか、はたまたその全てなのか…

アリーナの音が上から下に落ちてくるように聞こえ、それでいて割れたり、嫌な感じがしない。

これもまた非常にちょうどいいし、心地いい。

上から落ちてきて下で反響するので、最上段にいるとその音が1番早く到達する。

よって、試合のリズムに乗りながら試合を観戦することができる。

実は以前、違う会場で音響と試合のテンポがずれていることを経験したことがある。

誰に責任があるとかではないと思うが、おそらく音響のついている場所だったり、見ている場所によって生まれる少しの誤差だと思う。

個人的にはその誤差は、試合の勝負を分ける場面でホームアドバンテージ、強さと結びつくと考えている。

おそらくこのデメリットをカバーするために、意図的に演出の音量を上げている会場もあると思う。あくまで予想だが、リアルと配信とのバランスなども関わるのではないか。

そういう意味で、私も色んなアリーナを見てきたが、その誤差を気にしていない、気づいていないクラブも正直ある中で、努力で補っている会場が多くあり、本当に頭が下がるな…と感じたことがあるが、沖縄アリーナに関してはそれが関係ない。

ハード側で解決、むしろ、よりブラッシュアップされた空間を作り出してくれる。

また、観客が半分だったからかもしれないが、コートの声が最上段にも僅かながら聞こえてくる。コートレベルで見ていた人ははっきりと聞こえていたそうだ。

上から演出の音楽が落ちてきて、そして下からはバスケットボールの音が響いてくる。

この立体感こそが、最上段にいても臨場感につながっていると感じた。

これは今までに体験したことのない感覚だったし、何より音がすごくナチュラルにゲームの構成要素の1つに入っていくる。

大きさ、反響…色んなところでノンストレスであり、より試合を彩るスパイスとして音が彩られていたのが非常に印象的だった。

待つことのストレス

他にも色んな注目ポイントがあるのだが、語りきれないので、最後にしたいと思う。

アリーナ、スタジアムのマイナス要素には「待つこと」が挙げられる。

飲食、トイレがその代表例だと思う。

沖縄アリーナの公式サイトにも記載があるが、その中で女子トイレの作りは圧巻であった。(中には入っていない。)

これはJリーグで使用されているスタジアムなどで近年注目され、改修などがおこなわれている。

女性トイレにパウダールームの設置、トイレの空き場所を一目で確認できたり、入り口と出口を別にし、動線を作ることでの混雑の防止など、様々な改革が見られている。

実際これらの改革で女性トイレの混雑が緩和されているが、沖縄アリーナはそれらはもちろん、沖縄市体育館からトイレの個数もかなり増やした。

実際、4000人ほどが訪れたこの試合も女性トイレの行列はあまりみることがなかった。

スポーツ観戦にくるにあたり、やはりグループやカップル、ファミリーでくる場合は待機列に並ぶことで、共有できる時間が削がれてしまうことはマイナスになる。

ディズニーランドなどは待機時も楽しめるような仕掛けがあったりするが、アリーナではそれは難しいので、いかにその時間を短くするかは非常に重要だと感じる。

試合時間も40分と限られているため、その時間は極力試合を観戦したい。

そういう意味でも、今後アリーナでもスタンダートになるであろうこのような取り組みは非常に重要なポイントになるだろう。

また、飲食も待機列ができる1つだ。

飲食はキャッシュレスになり、スピード感が上がったものの、それでも待機列はできていた。そのあたりはホームゲームをこなしていく中での課題として、経験値が積まれている区中で、今後改善がされていくのだと思う。

ただ、この待機列に関しても、今までのアリーナに比べて圧倒的に少ないことを考えれば、観戦者を第一にしたアリーナであることは間違いない。

あとは8000人入った時にどのような景色になるかは未知数なので、ぜひコロナが明けた時には満員の沖縄アリーナを体感したいと思う。

非日常が日常になり、また非日常が生まれる

他にも書きたいことはたくさんある。このアリーナとキングスのバスケットボールの共鳴であったり、沖縄のバスケ熱であったり…

それはまた違う機会で書きたいと思う。

実際、キングスはこの試合に敗戦した。それでも、誰もがこの歴史的瞬間を楽しんでいたし、誰もがバスケットボールを楽しんでいた。

それは、このアリーナがよりバスケットボールをエキサイティングに感じさせてくれる要素が詰まっているからだと思う。

語弊を恐れずにはっきりと書けば、これまで体育館で行われていたバスケットボール。

それは陸上トラックのある競技場でサッカーが行われていることと近しいと思う。

その中、2002年を契機にサッカーも専用スタジアムが全国に誕生した。

バスケットボールも今回、バスケットボールをみるためのアリーナが誕生したのは、間違いなくバスケットボールの質を上げていくきっかけになると思う。

それは人気や強さとも間違いなく比例する。

これまで弛まぬ努力を続けてきた体育館では到達できないアリーナでのバスケットボールはまさしく今は非日常と言っていい。

しかし、これも少しずつキングスが先頭を走る中で、他のチームもそれぞれの地域やクラブに合わせたアリーナが作られていくだろうし、その計画が既に進んでいるクラブもある。

そうやって、この環境が少しずつ日常になった時、また日本のバスケットボールは新しいステージに足を踏み入れ、そして、そこから様々な知恵やテクノロジーによって、非日常をそこから生み出すのだと思う。

積み上げてきた歴史を重んじながら、いかに新しい歴史を創造していくか。

そして、その歴史的1ページとなるオープニングゲームをこの目で見て、体感できたことを心から嬉しく思う。

何より、現地に行ってこれは心から感じた。

琉球ゴールデンキングスだからこそ、この景色に到達したのだと。

そこにはクラブ、地域、スポンサーの力だけでなく、間違いなくファン・ブースターの力があった。

これからはきっと、各地域、それを囲む人々のバスケットボール力のようなものもBリーグの構成要素の1つになっていくだろう。

選手、クラブはもちろん、それを創り出すアリーナ、演出、理念に協力してくれる地域、スポンサー、そして何よりそこに集まり共に熱狂を創り出すファン・ブースター。

それら全てがしっかりとかけ合わさり、同じ方向で歩みを進めていけるかどうか。

琉球ゴールデンキングスがそれを示してくれたし、これからもそれを示し続けてくれるのだと思う。

レポートカテゴリの最新記事