日程が変更されたB1リーグ第23節レバンガ北海道vs横浜ビーコルセアーズは、この日、B1唯一の開催となり、注目の集まる試合だった。
平日の夜開催でありながら、横浜の竹田謙の北海道ラストゲームでもあるからか、横浜ブースターも含め、1592人のブースターが北海きたえ〜るに集まった熱気は素晴らしかった。
今回はこの試合を、エクストラパスの道産子宮本の独自の目線で少し振り返っていきたいと思う。
特にこの試合を分けた序盤の横浜とそこから盛り返した北海道のバスケットボールを中心に書いていきたい。
横浜のテイラー・パプ対策
北海道は怪我人の影響やここ数試合続く試合の入りの悪さを含めた上で、先発メンバーを入れ替えてきた。
基本的にゲームチェンジャーとして途中から試合の流れを変えていくジョーダン・テイラーをスタメンとして、多嶋、葛原、ファイ・パプ月瑠、ニック・メイヨの5人を起用した。
宮永HCも会見で
「ここ数試合、試合の入りが悪い試合が続き、インテンシティが低く、ここを改善したかった。」
と言及していたが、この試合もその試合の入りが最後に響く結果となってしまった。
その中で、北海道はジョーダン・テイラーとファイ・パプ月瑠を同時に起用するわけだが、横浜はファイ・パプ月瑠に対して日本人のアキ・チェンバースや森川をぶつけ、ジョーダン・テイラーにはロバート・カーターなどの外国籍をぶつけたことが最初の北海道の流れに淀みを作らせた見事な采配だった。
今シーズンの北海道におけるファイ・パプ月瑠の役割はディフェンス面の比重が大きいことはもちろん、オフェンス面ではスクリーン、リバウンドが主になる。
特にダンカースポットと呼ばれるゴール下の深いエリアにポジションをとりながら、ジョーダン・テイラーのドライブからアシストをもらい、2点を決めてくる展開は北海道の1つの形になっている。
しかし、横浜はそこに3番の日本人選手を意図的にマッチアップさせたことによって、ミスマッチを使いたいファイ・パプ月瑠がボールを引き出そうとポジションを取ることで、結果的に北海道のフロアバランスやボールムーブに淀みを作ることに成功した。何より、そこのポジション争いで負けなかったアキ・チェンバースや森川を褒めるべきだろう。
リバウンドでもしっかりとボックスアウトし、そして、アウトサイドの選手がファイ・パプ月瑠を飛ばせないようにファイ・パプ月瑠を挟みこむ。
オフェンスリバウンドをいい形で取ることもできずに、横浜が一気に流れを掴んだ。
また、ジョーダン・テイラーに関しても外国籍選手がマッチアップすることで、ドライブで切り裂かれることはあったが、3ポイントにプレッシャーをかけ、ジョーダン・テイラーらしさを出せない時間が続いた。
何より、この2選手はファイ・パプ月瑠はゴール下の深いエリアにいることでジョーダン・テイラーのドライブスペースをあけ、アタックされること、そこからのペイントタッチを怖がるからこそ、間合いを詰めきれないところで3ポイントを決めてくるといういい相乗効果を生む2人なので、序盤、うまくペイントタッチすることができずにジョーダン・テイラーの魅力も引き出せなかったことは横浜のディフェンスプランが光ったシーンのように感じた。
ワンサイドアタックし続けた横浜
また、1Qに北海道は同じようなやられ方が続き、多嶋と宮永HCがコミュニケーションを取るようなシーンなどもあった。
それが横浜のワンサイドに対するアタックだ。
ワンサイドとは、ドライブアタックする方にオフェンス、ディフェンスが1人しかいない状態のことを差す。
横浜は流れの中で、トップでボールをもち、片方のサイドにシューターを1人置く。
そして、1人側のサイド方向にボールマンがドリブルドライブすることによって、ヘルプはそのシューターのディフェンスが出てこなくてはいけないため、半端なヘルプになってしまえば、そのままドライブアタックをされるし、強めにヘルプによれば、キックアウトパスから3ポイントを作り出させる。
すごくシンプルであるが、守り方に判断が問われるシチュエーションで、横浜は特に前半の序盤の作り方はすごく人とボールが動くバスケットボールだった。
北海道の中野も会見で
「チームとして守らないといけないルールを24分の出場時間の中でできていなかったことが反省点。」
と悔しがったが、おそらくその辺りが該当するのだと思う。
北海道はドライブを意図的に抜かせて、コーナーのディフェンスがドライブを早めに止めにきて、ボールマンディフェンスがそのままコーナーにスイッチするディフェンス(ジャンプスイッチなどと言うと思う)なども試みて、アジャストを図った。
先ほどのファイ・パプ月瑠とジョーダン・テイラー対策や北海道のディフェンスをしっかりとスカウティングし、勝負どころを見極めた準備をした横浜のバスケットボールはゲームを支配するに値するバスケットボールだったと思う。
流れを変えた中野、牧
そんな北海道にさらに不運が襲う。ジャワッド・ウィリアムズの負傷退場だ。さらにゲームプランの変更が問われる状況が北海道に襲ったわけだが、ここから北海道が息を吹き返す。
そのきっかけを作ったのが中野、牧のウイングの選手だ。
特に牧は前年に横浜に在籍していただけあり、思い入れも強かったと思う。
表現が難しいが、緊急事態によって、新しい可能性が見えることはよくある。
今回はジャワッド・ウィリアムズの怪我によって、ジョーダン・テイラーとファイ・パプ月瑠のセットをより長く起用することになったこと、その中で、ウイングを中野、牧という2シューター、そしてニック・メイヨという普段はあまりない5人の組み合わせになった。
最初の2Q6分台はギクシャクした展開があったが、2Qオフィシャルタイムアウト後はタイミングが整理され、ドリブルの数が減り、ジョーダン・テイラーだけがドリブルを活用し、うまくスペース、タイミングをつきながら、ショットメイクしていくことに成功した。
特に中野はここ数試合個人としても、コーナーでの落ち着きがまし、ポンプフェイクからドライブアタックなどのパターンも増やそうと試みている。
それぞれの良さや進化している点が活かさせた時間帯であり、横浜にとってもすカウンティング情報が少ない組み合わせがゲームの展開を変えたように思う。
特に前線からハードにディフェンスを仕掛ける中野と牧の姿はゲームのリズムを変えるきっかけとなり、牧は2Qの2分8秒の多嶋の3ポイントを作り出すメイキングとスクリーンなどもみせ、ゲームの流れを変えるのに非常に大きな役割を担ったように思う。
宮永HCも会見で
「全と司がいい働きをしてくれた」
と2人の活躍を讃えた。
後半は流れの取り合い
後半は流れの取り合いとなった。最終的には最後に流れを掴み取った横浜の勝利となったが、北海道も後半にしっかりと前半の悪かったところを修正し、そして流れを変える策も仕掛けて、流れを掴み取った。
しかし、横浜も最後まで粘りを見せて最後の流れを引き寄せたのは「素晴らしい」の一言しかないし、北海道は最後の最後で不用意なターンオーバーが連発してしまった。この試合、北海道はターンオーバー数が少なかっただけに、取り返しが難しい時間帯でターンオーバーが何個か出てしまったのが、悔やまれるところだ。
個人的には、横浜の4Q残り58秒で決めたアキ・チェンバースの3ポイントは非常に素晴らしいものだったし、その裏側を見れば、そこで北海道が最後の最後でローテーションミスが起こってしまったように見えたところが興味深かった。
北海道が途中しかけたゾーンディフェンスなども非常に効果的に見えただけに、最後のミスが非常に悔しい展開だったため、個人的に宮永HCに質問をぶつけてみた。すると
「マンツーマンがうまく機能しなかった中で、チェンジング(ゾーンディフェンス)は用意していた。ラストのスリーポイント(4Q残り58秒)は、ポストにヒットさせて、ヘルプに行く中で、誰に撃たせていいのかなどは、まだ改善が必要になってくると思う。」
と答えてくれた。
ローテーションミス以上に、確かにあそこで誰に打たせてはいけないのは誰か?というポイントがあると思う。
そして、ここでそれを決めたのが、アキ・チェンバースであることを考えれば、彼にオープンで打たせてはいけなかったことは誰もが理解できるポイントであり、そこにマッチアップしていのが中野であることを考えると先ほどの書いた中野の「チームとして守らないといけないルールを…」という会見の言葉に再び戻ることになる。
つくづくバスケットボールは奥が深いと、つい天を仰いでしまったが、バスケットボールの面白さでもあると感じた。
中野はこの試合間違いなく活躍をした。しかし、彼がいう通り、個人の活躍以上に「チームとして」遂行するべきことをしっかりと高い強度でプレーし続けることが、バスケットボールの勝利のためには必要になる。
その中で、この試合は横浜の方がゲームを通じて、それを遂行し続けたとも言えると思う。
各クラブの残り試合も10試合程度になってきた中で、CSに向かうチーム、向かわないチームとも、この残り試合でどれだけチームとして求めるバスケットボールを表現し続けることができるか。
そんなことを体感させてもらえる試合だったように思う。
例年と違い、残留争いがないため、それぞれのチームがどんなバスケットボールを展開し、追求していくのかをみていくのも楽しいと感じるので、ぜひ今後も注目してみていきたい。
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