自分たちのバスケットボールをめぐる攻防~第18節秋田ノーザンハピネッツvsレバンガ北海道

自分たちのバスケットボールをめぐる攻防~第18節秋田ノーザンハピネッツvsレバンガ北海道

1月27日に秋田CNAアリーナでB1リーグ第18節秋田ノーザンハピネッツvsレバンガ北海道の試合が行われた。

秋田ノーザンハピネッツは、前節、Bリーグとなり初めて川崎ブレイブサンダースに勝利し、この13試合で11勝2敗と波に乗っている。

一方、レバンガ北海道も順位こそ、東地区最下位であるが、21年は4連勝の負けなし。こちらも勢いに乗っている。

そんな2チームの試合は本当に見どころだらけだった。バスケットボールの面白さが詰まっていた。その中で、今回はこの試合から感じた

「自分たちのバスケットボールをめぐる攻防」

という少し偏った見方ではあるが、この2チームのバスケットボールを少し振り返っていきたいと思う。

フラッシュバックした。

試合終了後の会見で秋田の前田HCは笑顔で、

「またこのパターンや…というフラッシュバック…フラッシュバックがすごかったです。(笑)」

と笑顔で話した。

この2チームの対戦した第4節は北海道のホーム、北海きたえ〜るで行われ、104-79で北海道が勝利した。第4節と今節も最初の出だしが似ており、私自身も会場は違えど、2−10でアウェイ北海道がリードした時、「これはあるな…」と感じた。

試合後、秋田の長谷川暢に話を聞いたが、長谷川暢もこのシーンを振り返り

「多嶋選手が3ポイントを2本決めたあたりで、ちょっと皆の意識として…もちろん持ってると思うんですけど、ちょっと弱めだなと思って…そこがやられてはいけない部分、自分たちが1番気をつけようと言ってた部分なんですが…」

と冷静に話してくれた。

多嶋朝飛は前節の横浜戦も勝負どころで3ポイントを沈めた。

今節の秋田戦の最初の1本目も、前節の横浜戦の勝負所で決めた3ポイントもベースラインをドライブしてからのキャッチアンドシュートであった。

北海道が今、非常にチームとして向上しているのは、このドライブでペイントタッチをし、そこからキックアウトでシューター(この場面では多嶋朝飛)まで届ける展開。もっと言えば、その前のジョーダン・テイラーとビッグマンなどのピックアンドロールなどで、ディフェンスのアライメントを崩し、展開の中で、クローズアウトシチュエーションを作り出す。非常にその展開、バランス、タイミングが整ってきた。

それは結果的にシュート成功率にも現れていると思う。

レバンガ北海道の「自分たちのバスケットボール」

今も書いた通り、レバンガ北海道の「自分たちのバスケットボール」は、(今回は長くなのでオフェンスのみ)3ポイントのアテンプトが多く(前節まで平均約25本)でチームのシュートの約40%を占める。

リーグ序盤は、乱れうちにも思える節もあったが、今ではそれも少しずつ整理されてきた。

シュートは打たないと入らない。

まさにそのような感じで、若手選手を中心に積極的にシュートを打っていた。

これは単純に専用練習場ができたことによって、練習の絶対量が増やせたことが1番だと思う。

そして、その3ポイントを作り出すために、ペイントタッチをする。(ドライブなどでペイントに侵入する)。

特に今節はジャワッドウィリアムズが欠場だったが、外国籍の3選手、ジョーダンテイラーの脅威や、ピックアンドロール時のニックメイヨがダイブ(ゴールに飛び込む)、ジャワッドウィリアムズがポップアウト(外に開いて3ポイントを狙う)というタイミングが非常に素晴らしく、そこからさらに違う展開に持ち込むことによって、最終的により良い3ポイントを放つことができている。

さらに言えば、ニックメイヨはポップアウトもできるし、ハイポストあたりからのアタックスキル、ミドルジャンパーも非常にうまいことがチームにとって好影響を作り出している。

ここは個人的な見解にはなるが、その中で、今まで目立っていた中野司の3ポイントが目立たなくなり、多嶋朝飛の3ポイントがここ目立ち始めてきたのは、その展開の中で、ディフェンスを見て、外す動き、ボールマンがパスを出せるところに顔出すスキルの高さが挙げられると思う。

北海道が次の段階に行くには若手のシューターに多嶋朝飛のような、タイミング、スキルが得られるかどうか…ということも考えられる。

余談になったが、これが今のレバンガ北海道の「自分たちのバスケットボール」と言えると思う。

秋田ノーザンハピネッツの「自分たちのバスケットボール」

では、秋田ノーザンハピネッツの「自分たちのバスケットボール」はどんなものだろうか。これは秋田の魅力に直結するが、この問いをBリーグファンに問い掛ければ、誰しも同じ答えが導き出されると思う。

ディフェンスの激しさ

これに尽きる。

そしてそこから、速い展開でオフェンスにつなげていく。秋田のバスケットボールは本当にトランジション(切り替え)の部分が速く、シュートを決められてエンドからボールを出すときも速い。

秋田は今シーズンポゼッション数がリーグトップクラスで、(ポゼッションが89.50)で激しいディフェンスから速いオフェンスに繋げることで、攻撃回数を単純に増やすことができる。

北海道と秋田の前節までのシュート本数を比べると北海道が平均約63本、秋田が平均約67本で4本の差がある。

この試合は最終的に(ファウルの多さでフリースローも多かったので一概に言えないが)シュートは両チームとも60本で、秋田の平均よりは7本少なかった。

強みというのは、裏を返せば、弱みにもなる。

北海道とは相性もあるのかもしれないが、秋田のピックアンドロールのディフェンスを北海道がうまくいなし、ペイントをアタックする。秋田はここでコーナーのディフェンスやリムプロテクターと呼ばれる外国籍選手が出てくるが、前の対戦ではそこでコーナーに待つシューターの選手にパスを飛ばされて失点を繰り返した。

今回の試合で、秋田は前回の対戦を振り返り、そこにしっかりと準備をしたと思うが、レバンガ北海道が単純にそれを上回った前半戦、特に1Qの入りだったように思う。

スカウティング、アジャスト、遂行力

この試合を振り返るときに注目したいのは、コートで起こっていることももちろんなのだが、コートの外で行われた戦いだ。

スカウティング、アジャスト、遂行力

よく聞く言葉だが、現代バスケットボールにおいて、ここが勝敗の大きなポイントにもなる。

まず、スカウティングは両チームともしっかりと行なっていると思う。そして、それを試合までの選手たちに落とし込む。

簡単に言えば、この選手は得点を多く取るけど、そこ以外はないので、得点を取られていい。とか、この選手は得点も取れるし、アシストもできてチームの流れを作るから、この選手がボールを持ったら、絶対に得点は取らせないように…などが挙げられる。(実際はもっと細かい)

それを選手たちが試合で遂行する。

そうすると、試合中にできていること、できないことを含めてアジャストをする。

この試合は、そのレベルが非常に高い試合だったと思う。

まず、北海道は今年から分析に力を入れている。前半、特に1Qの展開を見る限り、秋田のディフェンスの構成をしっかりと理解し、コートを広く使っていた。

秋田の長谷川暢も1Qにベンチから投入された時の印象を聞くと

「入りがちょっと良くなかったので、その中で自分はフレッシュな気持ちでコートに立とうと思っていて、前回(北海道との対戦)もそうなんですけど、すごくスペースがあるような…自分たちのディフェンスが…すごくリングが空いてしまうし、寄りすぎるとコーナーが空いてしまう。すごくスペーシングが上手なチームと思うので、寄りすぎないようにするのも意識しましたし、自分のマークマンに3ポイントを打たれないように、中野選手とか葛原選手だったり、そういった選手にとりあえず打たれないような守り方をして、リズム狂わせればいいかなって思って入りました。」

と少し難しそうな顔で語ってくれた。

北海道はこのスカウティングが非常に優れているし、おそらくコーチ陣の中でも、対秋田の崩し方をしっかりと統一して、落とし込みができたのだと感じた。

宮永HCが会見でも

「プラン通り、選手たちは身体を張って戦ってくれたと思います。限られたメンバーの中でも、勝つチャンスを多く見出し、最後まで諦めない。本来の我々が目指すべき姿をお見せしたと思います。結果は負けましたが、非常に選手たちはよくやってくれたと思います。」

と語った。

やるべきことはできた。ある種の充実感と同時に、この先に勝ち星を重ねるためにやるべきことをしっかりと見据えていたような印象を受けた。

秋田の前田HCは会見で

すごく難しい試合でした。北海道さんは選手がかけている中で非常に良いゲームプランを掲げたと思います。難しいゲームになると思ってたんですけど、ここまでゲームプランをゲームの中で…アジャストを多くしなければいけなかったというのは今シーズン始めてだったので、その中で勝ったのは選手が要求しているアジャストに対してしっかり遂行してくれた事が非常に大きな成長だと思いますし、こういうゲームを勝ち切れたことは良かったなと思います。ただもう疲れました(笑)」

スカウティングという部分で、北海道が秋田を苦しめたことは会見の言葉でも非常に感じられたし、それを遂行した北海道がレベルアップしていることを感じる試合でもあった。

次にアジャストになるが、ここは秋田が素晴らしかった。

前田HCもディフェンスで色んな種類の方法であったり、前後半で大きなフォーマットを変えたことに色んな感情が入り乱れた笑顔で

「みんなに我慢しろと…いつもと違うぞと。」

と声をかけたと言い、いつもの秋田とは違うやり方にシフトしたと話してくれた。

「いい風に言えば柔軟に対応しました、悪い風に言えば若干ブレました。(笑) だからちょっと気持ち的にどっと疲れましたね。次やるときは違う形でチャレンジしたいですし、より気合が入りました。(笑)」

秋田はそこまでしないと勝てないと判断し、後半から自分たちのやり方ではなく、今の北海道を止めるための形にシフトした場面が試合の中でも至るところで見えた。

実際に前半と試合終了後での数字を比べるとそれは数字にも表れていた。

前半の4ファクターを中心としたオリジナルスタッツ
試合終了の4ファクターを中心としたオリジナルスタッツ

具体的には、北海道の3ポイントの成功が前半は3本、後半は1本だった。アテンプトも試合を通じて17本と少なく、前半と試合終了時で、北海道のeFG%はかなり下がっている。(eFG%とはシュート効率)

北海道のファストブレイクでの特手の割合(FB)もかなり下がった。

秋田が自分たちのやり方から、(それがどんなことをしたのか?などは長くなるので言及を避けるが)今の北海道に勝利をするためにアジャストをしたチーム、選手たちが最終的に勝利を手にした。

厳しい言い方をすれば、北海道にはその「アジャストのアジャスト」ができなかったことによって、勝利を掴むことができなかったとも言えるかもしれない。(しかし前述の宮永HCの会見の通り、現時点での出し切れるものを出したのだと思う)

前田HCは、若干ブレてしまったと言ったが、それはこれから日本一を目指すためには必要なことでもあると感じるし、それをせずとも凌駕していく

「自分たちのバスケットボール」

を目指しているのだとも感じた。

そして、すでに書いてしまっているが、その遂行力である。

北海道がスカウティングで得た秋田攻略のポイントをしっかりと遂行ができた。

そして、秋田はそのスカウティングをしてきた北海道の形に、しっかりとアジャストして試合を物にした。

そういったバスケットボールの魅力に溢れた試合が水曜日の夜に展開されたのだ。

試合を分けたのは…

この試合の勝敗を分けたのは、そんな

「自分たちのバスケットボールをめぐる攻防」

だったと私は感じた。

もっと細かく言えば、「自分たちのバスケットボールに持ち込む力」と言える。

北海道はしっかりとスカウティングをし、それを落とし込み、作られたゲームプランを遂行した。

それは、ディフェンスを売りとする秋田というチームを相手に「自分たちのバスケットボール」を表現できたと言える。

一方、秋田はいつもの「自分たちのバスケットボール」を一旦しまって、目の前の対戦相手にアジャストして、それを選手たちは遂行をした。

それは、明らかに前半は北海道ペースだった試合(先のスタッツを見ても)を、最後に秋田の展開に持ち込み勝利をしたと言える。最後に1点でも多く得点した方が勝利するというバスケットボールの本質をしっかりと捉えて、

「自分たちのバスケットボールに持ち込む力」

を秋田が見せた試合だったように思う。

それを前田HCは「我慢」と表現したが、本当に素晴らしい試合だった。

また、両チームの選手のコメントや活躍にもそこが滲み出たように感じた。

北海道の橋本竜馬は会見の最後に

「試合に勝つことが間違いなく大事になってくると思いますけど、練習の中でどれだけ僕たちがチーム内で競い合って、そして試合に行くっていうサイクルをしっかり作れるかというはすごい大事になってくると思います。いい意味でみんながいい子になるのでなく、自分の良いところを持ってやるってのはバスケットの面白さでもあると思うので、今日はこの選手がこういう風にやってくれたっていうのはコーチの中にインプットさせるような、そういう刺激的なスパイスを持った選手が1人ずつ増えていくと、さらにチームとしては面白くなっていくと思いますし、バスケットボールとしても面白くなっていくのかなっていうふうに思います。それを常にやっていきたいなと思います。」

と力強く語ってくれた。

一方、この試合で前半ラストに同点となる3ポイントを沈めた秋田の長谷川暢は、

「(前半)2本目のシュートもいい形では打てていた。あとは中山選手や細谷選手に打てとは言われていたので、コーナーで思い切ってシュート打とうと思って、それが決まって、同点で折り返しできたので、自分としても気持ちがよく後半にも入れるかなと。いいシュートだったと思います。」

このあとのディフェンスで秋田が北海道をストップし、同点で前半を終えたことを前田HCも「素晴らしかった」と言及した。

しかも、それがカディーム・コールビーのブロックショットであれば、CNAアリーナが沸かないはずがない。さらに言及すれば、そこで、秋田は2−3のゾーンディフェンスから、マンツーマンにシフトして、長谷川暢が北海道の桜井良太にマッチアップするなど、秋田の選手はミスマッチになるマッチアップが多かった。

それでも、最後に研ぎ澄まされた集中力でこのディフェンスを守り切った。

この攻防も試合を大きく分けたシーンだったと思う。

小さいことだけれど、そういう積み重ねの差が最後の勝敗に現れるのがバスケットボールだと思う。

しかし、北海道の宮永HCもキャプテンである橋本竜馬も、現状をしっかり受け入れ、次のステップを見据えている。

山口颯斗含めた若手がどれだけ伸びてくるのか…などもこれからの北海道にとって鍵を握るだろう。

一方、秋田は4Qの勝負どころでイージーバスケットで加点をし、長谷川暢も微笑みながら、

「僕が後半、4Qに出てた時は2点差くらいで、古川さんだったり、結構スリーポイントも入ってリズムは変わったけど、まだ勝負は決まってないなと思いながら、プレイしていて、野本さんがレイアップを決めて、そこで自分もピックアンドロールを何度か使って、4番のところをアタックしたり、狙いどころとしては良かったのかなと思います。」

4番ポジションをスモールプレイヤーが務めないといけない状況である北海道の現状をしっかりと理解し、うまくそこをついた秋田の若手プレイヤー。そこにもチームとしての僅かだが、確かな力の差があったのかもしれない。

素晴らしい試合をへて、両チームがそれぞれの次のステップに歩みを進める。

この2チームの、次の対戦はちょうど1ヶ月後

そのとき、この2チームがどんな進化を遂げて、どんなバスケットボールを展開するのかを楽しみにしながら、今後の試合をチェックしていきたいと思う。

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