B3が開幕した。東京エクセレンスの戦いがここから始まる。
予定されていた開幕戦は対戦相手である八王子にコロナウイルス陽性者が出てしまい、中止となってしまった。
翌週に試合がなかった東京エクセレンスは1月22日、ホーム小豆沢体育館で20-21シーズンの開幕を迎えた。
今シーズンはコロナウイルスの影響により、B3リーグの開幕が1月に後ろ倒しにされただけでなく、毎年多くのファンが楽しみにしている公開練習やイベントも開催することができない状況となってしまった。
その中で、私が出演させてもらっているYouTube「BASKETBALL DINER」にて、東京エクセレンスの密着ドキュメンタリーをクラブに提案させていただき、長くなるオフシーズンに少しでも、バスケットボールファンにクラブの魅力や見ることが難しくなってしまった選手の努力を届けたい。
そう、提案させていただき、クラブの皆さんからも
「ぜひ、やりましょう!」
と言っていただけたことが、この撮影の始まりであり、本当に嬉しかったことを昨日のように覚えている。
No.1 Prelude
企画の名前は
「今バスケットボールにできること〜東京エクセレンスの挑戦〜」
東京エクセレンスは、決してビッグクラブではない。コロナ渦でのシーズンは間違いなく、苦しい。それでも、きっとバスケットボールに、そして、2度目のB3降格や、ドタバタだったBリーグ参入など、このクラブには乗り越えてきた歴史がある。
選手兼GMの宮田諭ものちにインタビュー撮影で
「紆余曲折がありすぎた」
と語ってくれた。
そしてそれは、今この瞬間もそうなのかもしれない。
石田HCもインタビューで
「B3に落ちることで、注目もそれてしまう」
と語り、それでもこれからのことに目を向けていた。
No.2 それぞれの覚悟
体育館で一際、笑い声が響く2人がいた。
ベテランであり、長くクラブに在籍する長澤健司と樋口大倫だ。
いつも彼らをきっかけにみんなが集まり、笑い声が響く。
彼らは分かっていた。今、クラブにとって自分たちがするべきことを。
クラブの長兄とも言える存在は、受け継がなくてはいけないものをしっかりと感じながらも、時にその不器用さや大きさにもがく姿もあったように思う。
それでも、このシーズンまでの準備期間に、彼らがクラブを引っ張り続けたことは紛れもない事実であり、そんな彼らが今シーズンの鍵を握る存在であることは間違いない。
No.3 期待を胸に
どんな組織にも期待を集める存在がいる。
クラブの顔となる存在であり、きっとクラブもそんな存在を待ち望んでいる。
それが田口暖と上松大輝だ。
ある練習で、石田HCが2人を呼び、プラスメニューを課した。
それは間違いなく期待の現れであり、このチームが今シーズンを駆け上がっていくための、ピースを求めていたように思う。
そして、2人もそれに答えた。
まだ荒削りかもしれないが、それぞれがこのクラブに対して持つ想いもあるはずだ。
そんな中、上松大輝は怪我をしてしまった。それが私にはこのチャンス、そしてこの期待に応えたい。という想いが、リミッターを外してしまったように感じた。
彼の動きには一際キレがあった。ひたすら、ボールとリングに向き合う彼を何度も見た。それはどこか、彼が歩んできたここまでの道のりの中で出会った様々な想いに答えを示したい。そんな信念のようなものを感じた。
きっと今シーズンこの2人が勝負どころを決めてくる場面を何度も見るだろう。
それは間違いなく、クラブの未来であり、彼らが歩んできた積み重ねの結晶なのだと思う。
No.4 成長できる環境を目指して
コロナは私たちの生活から「リアル」を奪っていった。そのせいか、社会の中で、言葉はトゲを持ち始め、多くの人が寂しさを隠しているように感じている。
毎週練習に通いながら、そんな時代に大切な「温かさ」や「ファミリー感」がこのクラブの至る所に詰まっていた。
多くのスタッフが、クラブを大好きと公言し、大好きなバスケットボールと向き合い、時に文句を言うこともあるそうだが…笑
毎日この体育館に通い、結局はこのメンバーで、このクラブで、バスケットボールができることの幸せを感じている。
そんなことをいつも伝えてくれたのは、田村亜有トレーナーだった。
いつも早く体育館に来て、いつも遅く体育館を出る。選手の身体に向き合い続ける彼女にとって、それは当たり前のことなのだろう。
早水アシスタントコーチは体育館を盛り上げながら、さまざまなところに気遣いをしてくれる。かく言う私も、そんな早水コーチの気遣いのおかげでチームに馴染むことができた。
ちょっとした一言で選手の動きが変わる時もある。このチームのバランスを調整しているのは間違いなく早水コーチだった。
今シーズン最も鍵を握る存在と勝手に思っているのが、冨樫ストレングス&コンディショニングコーチだ。
冨樫コーチの行う通称「ガシトレ」は見ているだけで疲労困憊になる。笑
それでも、選手たちがそこにしっかり向き合うのは、間違いなく信頼だ。
「この人について行けば、強くなれる。」
私自身もそう感じた。
けれど、全く飾らない親しみやすさと現場とフロントを両方経験したからこその懐の深さ。私もいつかそんな懐の大きい人になりたいとつい思ってしまう。
ある練習でどこか寂しさを感じることがあった。
体育館にいれば、どこにいても響く声が聞こえないのだ。
3×3の代表マネージャーとして招集されていた阿部桃二香通訳が練習に不在だった。
また、違う時、ある練習で初めて顔を合わせた鈴木美波トレーナーは選手の輪の中心にいた。
笑顔と声の大切さをこの歳になって、この場所であたらめて学んだ。彼女達のいる場所はいつも明るい。辛い時もあるだろうに、それでもチームを愛する彼女達だからこそ、コートに足を踏み入れたらしっかりとそのスイッチを切り替えるのだろう。そんな姿を私は心から尊敬した。
石田HCを含めた、そんなスタッフ達がこのクラブを支えていた。それぞれがそれぞれをリスペクトしていることがひしひしと伝わってきた。
今シーズンはそんなスタッフ陣にも注目してほしい。
何より、いつも駆け回るクラブ広報の津野さんを中心としたフロントスタッフの存在も忘れてはならない。
最注目はエモーショナルな阿部桃二香通訳だそうだ。(石田HC談)
No.5 心優しきビッグマン
東京エクセレンスの取材を始めさせてもらい、最初に目についた選手がいた。
それが小倉渓だった。
すごく個人的になるが、僕は伸び代を想像するのが好きだ。コーチ時代も伸び代のある選手を見つけては声をかけていた。
樋口大倫と1on1をする時間以外は、よくスリーポイントを練習していた。それは今シーズンのエクセレンスのスタイルでもあるが、その放物線はただただ綺麗だった。
昨シーズンは樋口大倫の復帰によって、プレイタイムが減っていった。
今季にかける想いは強いのだと思う。いつか、彼のスリーポイントでホーム小豆沢が歓喜にわく瞬間をイメージすると、それだけでこれからが楽しくなった。
そしてもう1人、重要な存在がいる。
日本人ビッグマンの長谷川凌だ。
クラブは12人から13人程度で活動をする。当たり前だが、コートに5人がいて、ボールが1つのバスケットボールにおいて、みんながエースになることはできない。
このスポーツを制するためには、ボールを持っていない選手がどれだけいい影響を作り出すかが、鍵を握っている。
長谷川凌はいつも淡々と練習も与えられた仕事もこなす。
それは簡単なことではない。また、ふとした時の気遣いもしてくれる。選手の中でうまくバランスを取ってくれる存在なのだと思うし、彼もまた、ビッグマンとは思えないシュートタッチの良さを持っている。
ただ、今までは自分の仕事ではなかっただけ。
今季はミドルシュート、スリーポイントも狙う機会も増えてくるだろう。それだけの準備はしている。
そんな心優しきビッグマン達。
けれど、内側にはしっかりと情熱が燃えている。PGとしてずっとプレーしてきた私も、そんなビッグマンがいると心強さを感じたことを思い出した。
No.6 ルーキーとベテラン
このクラブに合流する前にSNSでもやりとりをしていた選手がいた。
同郷の北海道出身のルーキー長澤亮太だ。
東海第四中で全国3位を経験し、U15の日本代表候補にも招集された。その後、東海第四高(現東海大札幌)に進学し、ウィンターカップの試合を私も現地で観戦していた。
ここで彼と出会ったのも何かの縁なのかもしれない。そう単純に思ったし、上から目線になるが、このクラブでよかったと思った。
その理由は、宮田諭という存在が1つ。そしてもう1つが斎藤豊の存在だ。
斎藤豊は大学卒業後、アメリカに渡り、その後ドイツのクラブと契約し、名門トヨタ自動車アルバルク(現アルバルク東京)で活躍をした。
バスケットボールは進化を続けているが、その本質は変わらない。
その本質を知り尽くしているこの大ベテラン2人から直接学べる彼が単純に羨ましかった。
実際に長澤亮太はすごいと思った先輩に斎藤豊の名前を挙げた。
出会いたくても出会えない。そんな2人の大ベテランから可能性に溢れるルーキーは何を学び、どんな成長を遂げるだろうか。
このクラブはさらなるステージに立つために、このケミストリーが鍵を握る。
直感で私はそう感じた。
No.7 Next Story
長いと思っていたシーズンまでの時間も、気づけばあっという間だった。新しくなった3人の外国籍、マイケル・グレイク、サムエル・デグアラ、テレンス・キングも合流し、新生東京エクセレンスの次なるストーリーが始まる。
しかし、苦しい時代はまだまだ続くだろう。
その中で、スポーツは、バスケケットボールはどんな価値を生み出すことができるのだろうか。
今、バスケットボールにできることはなんだろうか。
そんな自問自答からこのストーリーははじまった。
それぞれが、この時代と向き合い、バスケットボールと向き合い、自分自身と向き合ったストーリー
僕らはちっぽけなのだと思った。
だからこそ、そんなちっぽけで弱い僕らには、心を熱くさせてくれる何かが必要で、そして、温かい家族のような場所が必要なのだと思った。
それがこのクラブにはあるのだと。
今バスケットボールにできること
それぞれが困難な時代に挑戦する、弱く負けてしまいそうな自分。
そんなこれからの新しい時代の真ん中に、このクラブが、バスケットボールがあって欲しいと私は思う。
1月22日17時30分にティップオフされたホーム小豆沢体育館でのベルテックス静岡戦。
残念ながら、東京エクセレンスは初戦を勝利で飾ることはできなかった。
それでも、この東京エクセレンスは挑戦を続けていく。
コートの中も、このクラブもうまくいくことばかりではない。
「紆余曲折がありすぎた。」
そんな宮田諭の言葉を思い出す。
それでも、乗り越えてきた。
そんな東京エクセレンスにこそ、今できることがあると私は信じている。
今回の「BASKETBALL DINER」の密着ドキュメンタリーにご協力いただきましたクラブ関係者の皆様に心から感謝を申し上げます。
宮本將廣