宮本將廣のExtraColumn0010「日陰に咲く花 ~96世代が創る10秒先の未来~」

宮本將廣のExtraColumn0010「日陰に咲く花 ~96世代が創る10秒先の未来~」

12月9日立川立飛アリーナ

アルバルク東京vs秋田ノーザンハピネッツ

この2人がコートに立った時

6年前の「あの景色」が鮮明に頭をよぎった。

2014ウィンターカップ 準々決勝

伝統校である能代工高が7年ぶりにセンターコートに戻ってきた。
対戦相手はこちらも名門の福大大濠だ。

この試合は福大大濠が94-84で勝利をした。

そのセンターコートで、全ての観客の注目を集めたのが、能代工高の4番長谷川暢と福大大濠の13番津山尚大だった。

なにより、私もその観客の中の1人だった。

この試合、福大大濠が勝利したものの、能代工高の長谷川暢は28得点の大爆発。
福大大濠のエースである津山尚大をそのディフェンスで何度もシャットアウトした。

このマッチアップだけでなく、僕はなぜかこの大会がすごく印象に残った。

これを読んでいる方にも、自分の中の特別な大会や世代があるかもしれない。

僕にとってそれが96世代なのだ。

10秒先の未来

あれからちょうど6年の月日がだった。

福大大濠の津山尚大はウィンターカップで準優勝という実績を提げ、地元琉球ゴールデンキングスで高卒プロ選手になった。

2014年ウィンターカップ決勝
決勝の相手は2年生チームで八村塁を擁した明成高校。
福大大濠は69-71で惜しくも敗れた。

4Q残り13秒

ボールを受けた津山尚大がゆっくりキートップの位置にドリブルで移動し、スクリーンを呼んだ。

津山尚大が仕掛けた瞬間

時間が止まった。

オフェンスファール…僕は思わず、「違うだろ!」と声をあげ、頭を抱えてしまった。

僕は見たかった。
その10秒先の未来を…

津山尚大がどんなシュートを選択したのか…

そして、その先にどんな未来が待っていたのか。

その大会は八村塁の大会となった。

しかし、その10秒先の未来を見ることができたら…

あの大会は津山尚大の大会となったかもしれない…

もちろん試合も大会も素晴らしいもので、様々な要素の全てがバスケットボールだ。

僕はただ、1人の観客として、あのアタックの続きを見たかった。

対照的、けれどどこか重なる2人

そんな津山尚大は高校卒業を待たずに、アーリーエントリーで地元の琉球ゴールデンキングスに加入した。

一方、長谷川暢は早稲田大学に進学した。

一方は高卒プロとなり、一方は大学進学を選んだ。

選んだ道は対照的な2人だが、その道のりはどこか重なるようにも見える。

アーリーエントリーで14-15シーズンに20試合出場した津山尚大は順調にプロの階段を登っていく。
日本代表の強化選手にも名を連ねた。

しかし、17-18シーズンに出場機会を失っていき…移籍を選ぶ。

その後、海外挑戦を目指し、NBLカナダのハリファックス・ハリケーンズと契約をしたが、シーズン前に契約解除となった。

今年1月からアルバルク東京と契約を結んだが、まだどこか、悩みの中にいるように感じてるのは私だけだろうか。

一方、長谷川暢は早稲田大学時代に苦しみと向き合った。
1学年上に森井健太(横浜ビーコルセアーズ)がいたこともあり、目立った活躍はなかった。

失礼な言い方をすれば、全中優勝、MVP、能代工高のキャプテン…そんなネームバリューから考えれば、物足りなさを感じなくもない。

長谷川暢の名前が一気にまたバスケ界に知れ渡ったのは、大学4年時だったように思う。(インカレMIPを受賞)

そこから第2の地元とも言える秋田ノーザンハピネッツに加入し、当時のヘッドコーチのペップにはすぐにプレイタイムを与えられた。
ルーキーシーズンとなる昨シーズンは、ヘッドコーチ交代や新規メンバーの加入もあり、開幕当初はどこか長谷川暢らしさはなく、少し後ろから偉大な先輩たちを見て学んでいたようにも見えるが、どこか一歩引いていたようにも見えた。

しかし、今季はチームの中心として活躍している。

世代のトップを走る2人は、高卒プロと大学生という対照的な道を選んだ。

しかし、当たり前だが、外目から見ても、それぞれにもがく時間があり、常に右肩上がりというバスケ人生ではない。(もちろんどんな選手も様々な葛藤とともにその人生を歩んでいる)

狭間の世代

彼らの1つ下の世代は「八村世代」と言われ、U19世界大会では10位に輝き、メディアの注目は彼らに向く。

そして、1つ上には馬場雄大や杉浦佑成がいる。

そんな96世代は「狭間の世代」「谷間の世代」と言われることもある。

しかし、彼らだからこそ歩んできた苦悩はきっと将来の日本バスケにプラスの力を与えてくれると私は信じている。

サッカーの松井大輔や大久保嘉人ら「谷間の世代」と言われたアテネオリンピック世代は、のちに2010W杯で中心となり、ベスト16進出への立役者となった。
本田圭佑や長友佑都らは「谷底の世代」と言われ、北京オリンピックの戦いやその発言を批判されることも多かった。
しかし、2018W杯でベスト16に進む原動力となり、日本サッカー史上もっともベスト8に近づいたのも彼らの力があったことは間違いない。

そこには、スポーツと向き合いながら、人とのしての経験があったはずだ。

96世代はそんな彼らに似ている気がしている。

96世代は他にも

内田旦人(レバンガ北海道)、角野亮伍(大阪エヴェッサ)、久岡幸太郎(アースフレンズ東京Z)、中村功平(茨城ロボッツ)熊谷航(シーホース三河)、前田悟(富山グラウジーズ)、田口暖(東京エクセレンス)

など魅力的な選手が沢山いる。

3×3の京都BBに所属し、YouTubeなどでバスケ界を盛り上げる青木太一や海外挑戦を続ける猪狩渉もいる。

私は、きっと5年後、10年後の日本バスケ界は彼ら96世代がその中心にいると信じている。

今はまだ日陰に咲く花かもしれない。

そのスポットは前後の世代にあたっている。

しかし、きっとその魅力や努力は多くのクラブで、多くの人を惹きつけるだろう。

6年前、ウィンターカップ のセンターコートで誰もが彼らの戦いに目を奪われたように。

私はその時を信じている。

そして、あの見れなかった「10秒先の未来」

いつかどこかで

この道に続いていたのだと…

長谷川暢選手は毎週月曜日にnoteを更新中!ぜひ合わせてご覧ください。

https://twitter.com/n1o2b2o1_h/status/1333356344699600897?s=21

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