B2リーグ第9節
アースフレンズ東京Z vs 仙台89ers
Game1は42点差で仙台が勝利した。それは現実だった。
それでも、明日必ずもっといいゲームを…
東京Zの東頭HCは試合後の常套句のように繰り返した。
その言葉を…信じた人はどれだけいたのだろうか。
Game2
東京Zは74−71で仙台に勝利した。
1日で人は変われる。試合終了後に配信された東頭HCの配信にはそんな言葉が書かれていた。
この試合、私は現地に取材には行っていない。だからこそ、ここにこれを書く立場ではないことは十分に理解しているつもりだ。
しかし、ありがたいことに、「書いて欲しい」そんな問い合わせを何件かもらった。私も、このgameのことを書き残したい。
改めてそう感じた。
ここから先は取材や現地で感じた情報ではない。誠に勝手ではあるが、そのことをご理解した上で、読み進めていただきたい。
成長しながら、勝利に向き合う
東京Zは苦しんでいた。それはチームだけではない。ファン・ブースターも気持ちよく週末を迎えられていたか?と問われれば、笑顔で「はい!」と言える人は多くなかったように思う。
前節の山形戦に取材に行った時、会見に現れた東頭HCは場を和ませるように、雑談を始めた。
その表情は柔らかくもありながら、明らかにどんよりとした目の下のクマが目立っていた。
「この人は寝ていない。」
その表情を見て、私は素直にそう感じた。
以前、東頭HCから名門デューク大学の名将コーチKと会った時、「目の下のクマが凄かった」というエピソードを聞いたことがある。
東頭HCからは日本が世界と戦うために…とか、成長するために…
そんなキーワードをよく聞くことがある。
そんな言葉を聞くたびに、目の前の勝利は?そんな言葉をSNSでも見たことがある。
しかし、その時に私は感じた。
東頭HCは誰よりもチームの成長を信じ、そしてこのチームでの勝利を目指している。ただ、勝つだけではない。その先の未来をも見据えて、バスケットボールに向き合っている。
成長しながら、勝利に向き合う。
言葉にすれば、簡単だ。
しかし、東頭HCのその覚悟はそんな簡単に語れるようなものではないことを…
空気を変える男
このgameの話をしたいと思う。
この試合、もっと言えば、他の試合でも、このチームではどこか空気が変わる瞬間がある。
それが輪島射矢がコートに立つ時だ。
昨シーズン、膝の大怪我でシーズンを棒に振った男は、プロ生活で初めて、同じチームで3年目の契約を結んだ。
気づけば、3年目のシーズンは久岡幸太郎と並び、チーム最長である。(正確に言えば、久岡幸太郎は特別指定を含めて3年目)
決して、東京Zのメイン選手ではない輪島も、中心を担った多くの選手達が移籍をしたことによって、現在ではチーム在籍が最長の選手になった。
1Q途中、その輪島射矢がコートに入る。
そこで、私はある変化に気づく。
輪島射矢のディフェンスのポジションや身体の向き、ヘルプの行き方が、どこか少し違う。
そして、それらのディフェンスが成功するたびに、今までになかった位、東頭HCが感情を隠さず、拍手をする。
以前のHC会見でも、東頭HCは何度も
「ディフェンスのところでやっちゃいけないミスがあった。必ず明日は修正します。」
そのようなコメントすることがあった
動きを見る限り、おそらく輪島も完全ではないにせよ、ベテランとして、さすがのコミュニケーションで様々な選手のポジションを修正させているように感じた。
また、オフェンスで東京Zがシュートを打つ時、相手のリバウンドから速攻を防ぐために、セーフティーと言って、最初に自陣に戻る役割の選手がいる。
輪島射矢やシュートが入ろうが、入らまいが必ずそのポジションに戻り、1番後方からチームに「ディフェンスだ!」とはっぱをかける。
1Qが終わり、輪島射矢の役割は終わったかと思うと、2Qもそのままコートに登場した。
結局、得意のスリーポイントは1度も打つことなく、得点もなくベンチに下がるのだが、間違いなく、アリーナの空気が変わった瞬間だった。
想いが共鳴したキャプテンの進化
輪島射矢はお世辞にもスキルに長けた選手ではない。それでも、チームのために人一倍仲間を鼓舞し、たった数十センチのポジションの移動でも、サボることはない。
それ故に、どのチームでも必ず信頼を勝ち取る。
そんな輪島射矢の想いを共有したのが、キャプテンの久岡幸太郎だったように思う。
前半、久岡幸太郎はいつものようにゲームをコントロールしていた。
スキがあれば、シュートに行くが、おそらく比重は仲間達にボールを触らせて、他の4人を乗せて行こうとしている。
その姿は東頭HCの言葉が重なる時がある。
「乗せてあげたかった」
東頭HCは、よく「選手をうまく活かして、乗せてあげたかった」と自分の想いと反省を述べる。誰よりも選手のことを想っているのだ。
今シーズン、久岡幸太郎からもPGとして、キャプテンとして…そんな印象を私は感じていた。
「あ、去年なら、自分で行ってたのにな…」
もちろん、それは成長である。久岡幸太郎自身も多くの先輩達に支えられ、学んできたはずだ。
そうでなければ、今シーズンから14番を背負うこともないだろう。
そんな久岡幸太郎の雰囲気が変わったのが、2Qの2分20秒あたりだ。
仙台のジェイコブセンにゴールを決められた後、ボールをもらい一気にフロントコートまで駆け抜けた。
その姿はどこか、重りが外れたような…そんな疾走感だった。
その後、これはあくまでも印象論だが…重心を下げたようなこれまでのプレーから、少し跳ねるような、久岡幸太郎の独特なテンポ感にドリブルのリズムが変わった。
その後、久岡幸太郎は何本か自らショットを打っていく。
その多くはリングに嫌われ、東京Zがタイムアウトをとる展開になった。
しかし、久岡幸太郎の中の何かが変わった。
私はそう感じた。
この時、10点以上の点差があったこのゲーム、何かが変わるかもしれない。そんな印象を私は抱いた。
結果は、皆さんがご存知のとおりだ。
私は、この瞬間、東京Zの想いが共鳴したのだと感じた。
プロ2年目
その選手がチームの顔として、多くの期待を背負い、シーズンを戦う。
その責任を担うのは早すぎるという人もいるかもしれない。
しかし、久岡幸太郎はこれまでずっと、誰かの影に隠れてきた。本人は違うというかもしれないが、少なからず私はそう思う。
全中を優勝した中学時代は秋田の長谷川暢に…
高校時代は三河の熊谷航や岡山の酒井達也に…
大学では茨城の中村功平と2枚看板ではあったが、春のトーナメントで準優勝するものの、リーグでは2部降格、インカレ出場も逃した…
そんな久岡幸太郎は今、東京Zを背負っている。
ある意味、それを分かち合えるのは、ずっと久岡幸太郎を見てきた東頭HCであり、3シーズン苦楽を過ごしてきた輪島射矢なのかもしれない。
そんな輪島射矢の気持ちのこもったプレーの後、明らかに久岡幸太郎が変わった。
昨シーズンのようなゴールへ向かう姿勢が見られ、ゲームをコントロールしていく。
それはまさにゲームを支配していくようだった。
そして、誰よりも苦しんだのも、久岡幸太郎自身に違いない。
これまで、誰かの影に隠れていた素晴らしきプレイヤーがその瞬間、誰もが視線を送る絶対的選手に久岡幸太郎はなったのだ。
そのプレーで、色んな想いが共鳴した。
やはり、今、東京Zに必要だったものは、これまでの道のりの中にあったのだ。
私はそう感じずにはいられなかった。
だからアスフレはやめられない
これで3勝目
しかし、ここから先も結果が保証されているわけではない。
けれど、アリーナMCなどの運営、会場を盛り上げるZgirls、スポンサー、ボランティア、そしてブースター。
1人の若きプレイヤーの躍進で、すべての想いが共鳴した。
そして、それを誰よりも喜んだのは東頭HCのように感じるし、すぐに次に視線を向けたのも東頭HCのように思う。
勝っても負けても、次の試合はやってくる。
それでもこの勝利で、見えた景色がこれからのヒントになることは間違いない。
どんなに負けても、こんな瞬間がどこかのタイミングでやってくる。
ここから、もう1人、もう2人と
リミッターが外れる瞬間を、東京Zの試合で見つけたい。
まだまだこのチームには若き才能達があふれているし、輪島射矢のプレーを見ていたら、ベテランもその瞬間が訪れるかもしれないと私は期待してしまう。
だからアスフレはやめられない
私は1人でそんな言葉を呟くのだった